あけましておめでとうございます、映画『あすみ』ブログ担当の堀部と申します!
今回は佐々監督へのインタビューをお送りしたいと思います。
監督の、作品作りに対する真摯な姿勢がひしひしと伝わってくる内容になっています。
最後まで楽しんで読んでいただけたら嬉しいです。
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ーーまず、『あすみ』を書こうと思ったきっかけについて教えてください。
佐々:元々、全員企画書を出すと知らない状態で「映像制作実習」を受けていて、企画書を出すってなったときに、いきなり架空の話を書く能力はないと思ったんです。
そこで、今までの人生で気になっていることや、考えてみたいことについてこの機会に考えてみようと思いました。そうしたら高校時代に不登校になった知り合いや、親戚のおばちゃんのことが頭に浮かんで、この二人を中心においた話を作ろうと思い至りました。だから、私が会わなかった時間にその二人にどんなことがあったのか、どういう人生を送ったのか、ということを考えたのがこのお話のはじまりです。
ーー佐々さんは普段基幹理工学部で飛行機に関わる研究をしていると思いますが、どうして今回「映像制作実習」に参加しようと思ったのですか?
佐々:そもそも、飛行機の研究をしたいと思ったきっかけも映画で。ジブリの『天空の城ラピュタ』や『紅の豚』を観て、こんな風にかっこいい飛行機が作りたい!と今の専攻を選びました。ただ、入って3か月くらいで自分はあまり理系に向いていないことが発覚して…(笑)でも、映画が人に与える影響を身を持って体感して、映画を見ることで人生はより豊かになるのではないかと思いました。そういう背景があるので、映画を多くの人に届けること、具体的には映画の宣伝や上映会の運営などに興味があって、この授業を取りました。
ーー私から見ると佐々さんはすごく論理的に、観客に伝えるべき情報を綺麗に整理して書いているという印象があって。どんなことを意識して企画書や脚本を書いていましたか?
佐々:少しずつでもいいから、成長したものを見せたいと思っていました。この授業を受けて、一人ひとりの企画書に先生が10分くらい講評をくださることにびっくりしてしまって。先生方が学生の企画書に対してこんなに真剣にコメントをくださるなら、自分も毎週真剣に考えた成果が表れるものを提出しよう、と思っていました。
先生は具体的な指摘はくださらないこともあるので、それについて「どういうことだったんだろう?」と一週間考え続けて、自分なりにこういう解釈をしました、というのが伝わるようにしたいな、と思っていました。良い改稿ができなかった週もたくさんあるけれど、そういうときは先生方が「脚本と真剣に向き合ったことはわかる」と言ってくれて、悩んだ時間は無駄じゃなかったと思えたからここまで来られた気がします。
ーー改稿をする際には大幅にシーンの順番を入れ替えることもあったと思いますが、頭の中を整理するためにやっていたことはありますか?
佐々:先生が紹介してくださったやり方をやっていたのですが、映画の場面と、映画の中で伝えるべき情報をそれぞれポストイットに書き出し、それを動かして考えていました。場面を入れ替えたなら、じゃあその場面で伝えようと考えていた情報をどこに動かそうか考えて、ピッタリ合ったところでその内容を伝えるというやり方をしていました。
ーー緻密に練られた脚本にも注目ですね。脚本執筆の際には「人を動かす」ということを特に意識していたと思うのですが、その理由と、工夫していたことを教えてください。
佐々:映画を作ったことがなかったので勉強をしなきゃと思って、先生方の作品を観ていた時に、人は真っ正面で話さないということが分かって。実際に自分の生活を思い浮かべても、何かをやりながら話すとか、視線もずっと相手を見ているわけではないなって気付いて、何かをやりながらの方が人って本心を話しやすいだろうなと思い、人を動かすようにしていました。
工夫していたことは、その動きに意味を付けることです。物語の中盤で、主人公のあすみが咲さん(あすみが出会い仲良くなっていくおばあさん)の家でお茶を運んでくるシーンがあるのですが、その動きで「お茶の用意ができるくらいにその家で長い時間を過ごしている」ということを表そうとしています。あとは、咲さんがエプロン姿で出てきたら画面には映っていないけど夕食の準備をしていたんだろうなっていうのが観た人には想像できるだろうし、映画の中で描かれていない時間が動きで表れるように工夫しました。こういうことを考えるのがすごく楽しかった!
ーー「目と口と手の動きをバラバラにする」という先生からのアドバイスもありましたよね。
佐々:そう、是枝先生が料理をするシーンではそういうことができるから面白いとおっしゃっていて、一か所無理やりそうしました(笑)でも、毎回先生に言われたことはぜひ挑戦したい!と思ってやっていましたね。
ーー撮影現場での話に移りたいと思いますが、初めての映画撮影で苦労したことや楽しかったことは何ですか?
佐々:基本ずっと楽しいんですよね(笑)苦労したことも大変だったこともあるけど、結局全部楽しかったです。
改めて考えると、苦労したこととしては二つあって。一つは言葉で伝えることってすごく難しいなと思いました。脚本を書いた段階でこういう風にセリフを言うんじゃないかな?というイメージがなんとなくあって、そのイメージと役者さんが演じたものが違ったときにどう伝えるかというのは結構難しかったです。自分は日本語を使うのが下手だなと心底思いました。
もう一つは、判断を現場でしなければいけないということです。それが監督の仕事なんだろうけど、その場にいる全員の判断をしなければいけないということが私はあんまり得意ではなくて。脚本はあくまで話の流れが書いているだけであって、最終的には役者さんやみんなと作り上げていきたいと思っていたので、現場で最終判断をすることが多かったです。大変だったけれど、今までそういうことを避けてきたから良い経験というか、この授業を通して挑戦できたことの一つだと思います。
ーー現場で佐々さんを見ていて、撮影を重ねるにつれてどんどん監督らしくなっていくなあという印象を持ったのですが、自分の中で意識が変わったタイミングはありましたか?
佐々:最初が連続3日間の撮影だったのですが、その時に全然上手くできなくて、最後の日にキャストさんに「色々不慣れで申し訳ない」と話した時に、咲さん役の酒井さんが「この現場は大丈夫よ。監督が愛されてるから」と言ってくださって。「そんなことない…!」と思っているけれど、その言葉を信じることにして、それを機に自分の中で意識が変わったと思います。
あと、私が撮影監督と話しているメイキング写真があって、そこに写っているスタッフが自分の話をすごく真剣に聞いてくれていて、「こんなにみんな私の話を聞いてくれてるんだ!」と思って(笑)責任の大きさを改めて感じて、エンドロールでみんなが自分の名前が流れたときに、『あすみ』に参加してよかったと思えるような作品にしようと思いました。
ーー今チームメンバーの話も出ましたが、佐々班のチームワークについてはどう感じていますか?
佐々:みんなびっくりするほど優しい(笑)全員が優しくて、相手の気持ちがわかる人が多い。私が監督をやっているというよりは、みんなが私を監督にしてくれているような感覚があります。班の人たちは「考えること」が好きな人が多いと思っていて。脚本からそれぞれの部署の人たちがこだわって考えてくれることで、私の頭の中の妄想でしかなかったものを「映画」にしてくれました。最初の頃は、この班を選んでみんな後悔したらどうしよう、こんな個人的な話に付き合わせてしまって申し訳ないと毎晩思っていました。でも、撮影が始まって映像をみんなで確認していた時、「もっと装飾をこうするべきだった」「照明もっとあてればよかった」と自分の担当する部署の反省をみんながつぶやいていて、その時に、もうこれは自分だけではなくみんなの作品になっているなと実感してとても嬉しかったです。最近は一緒にいる時間が長すぎて、あすみ班の人といる時間が一番落ち着くし、私にとって自分らしく生きられる貴重な居場所である気がしています。一緒に過ごせば過ごすほど、みんなのこともどんどん好きになっていきます。本当に素敵なメンバーと一緒に映画を作れて幸せです。
ーー自分の頭の中でだけあったものが、役者さんやスタッフなど多くの人との関わりの中で形になっていく過程で、想像以上に良くなったと思うところはありますか?
佐々:全部思っていた以上のものになりました。監督をするのが初めてで、とにかく多くの人の意見を聞きたかったので、意見を言いやすい監督でいたいなと思っていました。
『あすみ』は自分の人生で「考えたい人」をテーマにしているので、監督が全部「わかっている」わけではなくて、むしろ、私自身もわからないし考えたいから撮りたかった。実際に撮影をした時の役者さんを見て、あの子は家ではこんな表情をしていたのかなと重ねることもありました。
また、スタッフのみんなが何度も撮影のシミュレーションをして、脚本の不自然な動きやセリフを一つずつ教えてくれたおかげで、改稿していくことができました。みんなから自分にまったくない視点をもらえて発見の連続だったし、出してくれる意見それぞれにみんなの個性が出ていて面白かったです。色々な意見をもらいすぎて結局どうするか決めるのは難しかったけれど、みんなで話し合った時間は無駄じゃなくて、「悩んだ結果これです」というのは映像に表れているなと感じます。
ーー『あすみ』という作品は、役者さんとともに作り上げていった部分も大きいと思います。キャストの方々に『あすみ』出演をお願いした際の、決め手について教えてください。
佐々:一番大切にしていたことは、見た目などではなく、登場人物の悩みをちゃんと共有できる人と一緒にやりたいということです。画面を通して観た時に、「この人は本当にこう思ってそうだな」と感じられる人にお願いしたいと思っていました。
あすみ役の永井さんは、初めて会った時から脚本をすごく読んで理解してくださっていて。また、永井さんが仕事に対して思い悩んでいることを知り、そのときちょうど自分も「どうして自分は監督をやっているんだろう」と思っていたので、そういう面でも一緒に悩める人とやりたいと思ったのが最終的な決め手でした。
咲さん役の酒井さんも、やっぱり登場人物の背景を一緒に考えて、一緒に作品を作っていってくださりそうだな、と感じたのでお願いしました。千里(咲さんの親戚の小学生)役の有香ちゃんは、オーディションの部屋に入ってきた時から「千里だ!」と思えるくらい、そこにいるだけでナチュラルに千里に見えたので絶対一緒にやりたいと思いました。
ーー最後に、この作品の見どころも含めて、ひとことお願いします!
佐々:この作品はそんなに大きな事件も起こらないし、衝撃的なことも起こらないけれど、あすみが一歩ずつ確実に変わっていく姿を見ていただけたらと思います。役者さんだけではなく、カメラ、録音、照明、美術、衣装…すべてのカットに想いが詰まっています。ぜひ細部までご覧ください。1月16日に上映会があるので、多くの人に観ていただけたら嬉しいです。
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佐々監督はゆったりとしているけれど芯があって、班員にいわゆる監督ぶったような振る舞いはしないけれど絶対的に監督と慕われる人です。『あすみ』は、そんな佐々さんの人柄が滲む温かい作品になっています。
まだまだ制作中ですが、最後まで良い作品になるよう班員一同がんばります!
2021.1.6(水)